僕様王子に全てを奪われて
『愛子、爪…噛んでる?』

竜ちゃんの声にハッとして、左の親指を口元から離した

「私、そういうつもりじゃない!
莉子さんと竜ちゃんの間に入ろうなんて思ってないし
勇人さんが名前を言うまで、知らなかった
ただ、勇人さんに頼まれたから…ただそれだけ、なのに」

『ご、ごめん
僕はただ…』

「旅行行かない」

『えっ?
ちょっと待ってよ
今ので傷ついて旅行を辞めるなんて言ったなら、僕は謝るから!』

竜ちゃんが早口になる

焦ってるのがわかる

別に

今の言葉だけじゃないけど

旅行、行きたくなくなっちゃったんだもん

有栖川が冷たいから

行きたくない

ただそれだけ

「行けない」

『愛子、ちょっと待ってよ
みんな愛子に会えるのを楽しみにしてるんだよ』

「行かないって言ったら行かない!
それと勇人さんにアドレス、教えていいから
じゃあね」

『愛子、僕のはなっ…』

私は電話を切ると、携帯を投げた
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