僕様王子に全てを奪われて
「聖一郎、こんな時間にどこに行くのです?」

玄関へとつづく長い廊下を歩いていると、母上がぴしゃりと障子を開けて僕の行く手を塞いだ

「母上、家に帰ります」

「家? 貴方の家はここでしょう?」

「まあ…そう、とも言いますけど…」

もう一つあるの…知ってるのに

僕の生活は、マンションにすでに移動してるってわかってるくせに

そういうことを言うんだよね、母上は

「なら、出かける必要はありませんね」

冷たい冷気を身体から放ちながら、母上が僕を見ている

「もう一つの…」

「『もう一つ』?
ああ、小さい箱のような倉庫?
明日は、ここでお教室があるはずですよ?
今更、行ってどうするんです?」

「行きたいから、行くんです」

「聖一郎、滝沢の女にロクな女はいません
諦めなさい」

「過去の話ですよね?
僕には何の関係もないことです」

「貴方だって苦しい思いを…恥ずかしい思いをさせられたはずですよ」

それは…母上が執拗に父を責めたからだ

父がいけないのはわかってる

でも母上にだって責任はあった

僕は、滝沢家だけに非があったとは思えない
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