僕様王子に全てを奪われて
「もう少しよ
もう少し、頑張れば、必ず良いことがあるに決まってる」

私はぼろアパートを出ると、深呼吸をして歩きだした

足が痛い

こりゃ、明日は筋肉痛決定って感じがする

「どこに行くんですか?」

背後から声がした

今、一番聞きたくない声だ

有栖川 聖一郎

アイツの声は空腹でイライラしている私に、さらに怒りの油を注いでくれる

ぐるっと振り返ると、キッとアイツを睨んだ

「新しい住処を探しに行くのよ」

「僕は今日一日、ずっと愛子さんからの連絡がくるんじゃないかって
期待して待ってたんですけど?」

「あら…期待はずれもいいところだわ
この先、一生…私からの連絡は来ないと思っていて正解よ」

「どうして?」

「私に連絡する気がないからに決まってるじゃない」

「寂しいです」

「なら冴子に慰めてもらいなさい
あの豊満な胸に顔をうずめて、そのまま窒息死してくれたら私は手を叩いて喜んであげる」

有栖川の口がへの字に曲がると、大股で私に近づいてきた

私は後ずさるが、有栖川の歩幅のほうが大きくてあっという間に腕を掴まれた

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