左の草履
「ただいま〜」
そう言いながら玄関に入ると、玄関に見慣れない靴があった。スニーカーではない、高そうな革の靴。
首を傾げていると、家の奥から「お邪魔しました」と小さな声が聞こえた。「いえいえ、気を付けて帰ってね」と、母さんの声も聞こえる。
その場でつったってると、リビングのドアが開いて、兄ちゃんと知らない女の人が出てきた。兄ちゃんが僕に気付いて「あ、シズお帰り」と言った。すると、隣で制服を着た女の人がお辞儀した。
僕もおずおずとお辞儀した。
「これ、弟の靜人。初めてだよな」
兄ちゃんが女の人にそう言うと、女の人はうんと頷いた。それからすぐに僕の方を向いて歩いてきた。
一瞬怯んだが、にかっと笑われて僕もつられて笑ってしまい、なんだか不思議な気持ちになった。
「今何年生?」
「小5、です」
「そっか。お兄さんと仲いいの?」
「は、はい」
「そっか。いいね、かっこいいお兄さんいて」
「おい、なにいってんだよ。やめろよ」
はい、と答えようとしたら、兄ちゃんが不機嫌そうに間に入った。すると、女の人は笑いながら低めの声でごめんごめんと謝った。