左の草履







「ただいま〜」




そう言いながら玄関に入ると、玄関に見慣れない靴があった。スニーカーではない、高そうな革の靴。


首を傾げていると、家の奥から「お邪魔しました」と小さな声が聞こえた。「いえいえ、気を付けて帰ってね」と、母さんの声も聞こえる。

その場でつったってると、リビングのドアが開いて、兄ちゃんと知らない女の人が出てきた。兄ちゃんが僕に気付いて「あ、シズお帰り」と言った。すると、隣で制服を着た女の人がお辞儀した。
僕もおずおずとお辞儀した。


「これ、弟の靜人。初めてだよな」

兄ちゃんが女の人にそう言うと、女の人はうんと頷いた。それからすぐに僕の方を向いて歩いてきた。

一瞬怯んだが、にかっと笑われて僕もつられて笑ってしまい、なんだか不思議な気持ちになった。


「今何年生?」


「小5、です」


「そっか。お兄さんと仲いいの?」


「は、はい」


「そっか。いいね、かっこいいお兄さんいて」



「おい、なにいってんだよ。やめろよ」



はい、と答えようとしたら、兄ちゃんが不機嫌そうに間に入った。すると、女の人は笑いながら低めの声でごめんごめんと謝った。



< 10 / 19 >

この作品をシェア

pagetop