左の草履



「あやしーなぁ」



と、兄ちゃんは目を細めて笑った。僕は兄ちゃんのこの表情がなんだか優しげで好きだから、心の奥がホンワカして自然と笑ってしまった。
そんな僕を見て、兄ちゃんはほっとため息をつきながら「とにかく、」と言った。


「それは冗談としても、不安なことはあんまり一人でため込んじゃ駄目だぞ。兄ちゃんなら、いつでも聞くからな」





そう言って、兄ちゃんはそそくさと二階へ上がって行った。




僕は考えていた。



もし兄ちゃんに相談したら、きっと真面目に相談に乗ってくれる。多分頭のいい兄ちゃんのことだ、的確かつ正確な答えをくれて、僕はとっても満足するだろう。




(けど、それじゃあ意味ない…)



僕が聞きたいのは、和希の事じゃない。倉田さん…つまり“女の子の気持ち”が知りたいのだ。



だって、僕は理解出来なかった。


何故好きな人に対して、あんなにも辛く接するのか?
だって、好きなら優しくしたいし、仲良くなりたい。そして相手に好きになってもらいたいと思うのが普通なんじゃないのか?




(僕がおかしい…の、かも)





結局その時は、そういう結論が出た。
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