左の草履
「な、だっていつもは倉田さんが…」
「うん。だから質が悪いんだよ。今日倉田一度も和希と会話してねーんだ。和希が『おーいゴリラのハナクソ〜』とか言ってもだぜ。無視だよ。有り得ねーだろ」
礼二くんは、そう言って顔をしかめた。
確かに異常だと僕も思った。
はっきり言って、どんなに喧嘩をしても、遅くとも一時間後にはまた普通にちょっかいを掛け合っていた二人だ。こんなこと、前代未聞だ。
(何で急にこんなことに―…)
その時、僕ははっと気が付いた。
「ねぇもしかして、昨日のやつのせい?」
すると、礼二くんは頷いた。
「うん、多分な。」
「つか…それしか考えられねーだろ」
と反したのは健太郎。
考えてみれば、昨日の和希も倉田さんも、なんだか怒り方がいつもと違った。和希なんてあと少しでぶちぎれる所だったし…
(じゃあ倉田さんの方は何で急に…)
と考えてすぐに、僕は最悪の結果が頭に浮かんだ。
「…僕のせいだ」
僕が呟くと、二人は「は?」と口をあんぐりとさせた。
「なんで?」
礼二くんが不思議げに見つめる前で、僕はわなわな震える唇を必死に引き締めた。