左の草履
僕は、チラリと教室を覗いた。
和希と倉田さんは後ろ前の席で、まだチャイムが鳴る前なのにも関わらず、自分の席に座っていた。
もちろん、会話はない。
二人とも同じように怖い顔をして、和希は黒板を、倉田さんは机をにらみつけている。
(はやく元通りになって)
僕は拳をギュッと握り締めて、強く願った。
例え理解出来なくても、なんだか僕は喧嘩をしている時の二人のほうが好きだから。
だっていつも、本当に二人とも楽しそうだから。
僕は、時々羨ましくもあった。
女の子とあそこまで言い争える和希にももちろんだけど、でも一番は倉田さんだ。
女の子なのに男子に対してああも力強く主張して自分の意志を曲げないところは、むしろすごいと思うから。
だって、他の女の子はみんな男子にきついことを言われたらすぐに泣いてしまうか、先生や親に言って終わりだというのに。
僕は、いつも和希にひどいことを言われても絶対泣かない倉田さんの強さが、とても羨ましかった。
だから早く仲直りして欲しかった。
元気な倉田さんが、僕は見たかったから。
しかし、それは叶わなかった。
その後二人は1週間立っても仲直りをすることはなかった。