左の草履
「いつまでやってるんだ、おまえら」
倉田さんと和希が会話しなくなってから二週間が経ったその日、ついに高橋先生は痺れを切らした。
何故なら、倉田さんは和希から回って来た学級通信のプリントを受け取ろうとせず、素知らぬ顔で外を眺めていたため、プリントが後ろへ回らなくなったからだ。
高橋先生は、そういうみんなに迷惑をかける行為をものすごく嫌っていた。
「おい、倉田。何やってんだ、プリント受け取れ」
先生が怖い顔でそう言ったが、倉田さんは知らん顔だ。完全に無視している。
「…倉田、聞こえなかったか。早くプリントを」
ガタン!
急に音がしたと思うと、和希がすっくと立ち上がった。
そしてプリントを、倉田さんの横を通って後ろの吉岡さんに渡した。吉岡さんはびっくりした顔でプリント受け取った。
和希は無表情で席に戻った。もちろん、倉田さんの方は見ない。
僕はチラリと倉田さんを見て、ドキッとした。
(泣いてる…?)
倉田さんはうつむいていたのでみんなに表情は見えなかったと思う。けど、背の低い僕からだけは見えた。
顔を真っ赤にして、涙目になっている、倉田さんの悲しげな顔が。