左の草履
「と、とにかく、放課後お前ら2人とも職員室来い!いいな!」
それだけ言うと、先生は出ていった。
その直後、終業の鐘が鳴った。
「おい和希、どうだった?」
放課後、職員室から帰って来た和希に礼二くんは不安げに尋ねた。
時間はもう6時だった。かれこれ3時間は職員室にいたことになる。嬉しいことを言われた訳じゃないことはみんな分かっていたけど、しかし聞かずにはいられなかった。ちゃんと仲直り出来たのだろうか?
「あー、怒られた」
と、和希は後ろ頭を触りながら言った。
「あと、倉田が“和希くんのことが大嫌いです”って言ってた。先生に。」
「なんだよそれ」
礼二くんは怒ったように呟く。
打って変わって、和希は無表情だ。
「そんなん、知ってるっつの…」
そうぽつりと溢してから、和希はランドセルをしょって物凄いスピードで走って行った。
「待てよ和希!」
礼二くんが追い掛けたけど、既に遅かったようだ。もう、和希の姿は無かったらしい。
「そろそろやばくね?これ」
健太郎が僕の顔を見て静かに言った。僕は頷く。
(倉田さん、本当は仲直りしたいんだよね。)
心の中で呟く。
けど、今日倉田さんが泣いていたことは黙っておこう。
あの瞬間を、今知ってるのは僕だけで十分だ。
なぜだか、僕はそう思った。