左の草履







プールの授業が終わった後、更衣室で着替えていると、和希がおぃおぃと言いながら僕をどついて来た。僕は「なに、和希?」と尋ねた。



「お前モテモテじゃん、靜人ぉ!」




僕は、ぽかんとして和希を見つめた。一体なんのことだ?




「え、なになに。靜人モテてんの?いいな!」と勢い良く入ってきたのは隣町に住む礼二くん。女の子の話が多分誰よりも好きだ。



「マジかよー」と残念そうに眉根を寄せるのが、スポ少でピッチャーをやってる健太郎。健太郎はいつもは無口なくせに、人のモテるモテないの話には口数が増える。



いつも僕は和希、礼二くん、健太郎の3人と一緒にわいわい話しているので、自然と何故か集まってしまう。今だってそうだ。



しかし、今の僕にとってそんなことはどうでもよかった。



“僕”が“モテモテ”?
なんで?



理解出来ずに首を傾げていると、和希がニヤニヤと笑って「意味分かんねーって思ってるだろ」と僕の肘をつついてくる。

やめろよ、といって腕を振り払って、僕は和希をにらんだ。


「和希、嘘はやめろよな。僕、嘘は大嫌いなんだから」


そういうと、和希はキョトンとした顔で「嘘じゃねーよ」と言った。
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