左の草履



「馬鹿だなお前、気付かなかったのかよ、ゴリラのあの顔!」



和希は得意げに指差した。



「俺、男の前であいつが顔赤くするとこ初めて見たぜ。あれ、絶対にお前に惚れてんだよ!」



僕は、さっきの出来事をもう一度頭のなかでリプレイしてみた。

確かに、倉田さんは僕が話し掛けた後顔を赤くした。けど、明らかに不機嫌そうだったし、照れるというより正しくは…



「あれ、怒ってたんじゃないの、単に」



僕がそう言うと、和希はワハハと笑った。



「ぜってー、無い!あれは怒ってる感じじゃなかったって。てかあれ絶対お前のこと好きだし。間違いない」




「ふぅん…」




口を尖らせて、僕はバサリとTシャツを着た。着る途中、倉田さんの表情をもう一度思い浮べたが、やはり倉田さんが僕を好きだとは思えなかった。
礼二くんと健太郎も、顔を見合わせて眉根を寄せていた。



楽しそうなのは変な踊りを踊りだした、和希ただ一人だった。


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