左の草履
その日から僕は、倉田さんをさりげなく観察するようになった。
観察しだしてから気付いたことは、倉田さんは毎日和希を蹴ったりどついたりしているということだ。
休憩時間中は、いつも礼二くんや健太郎と喋ったりもしくは本を読んだりしている僕にとって、それは初めて知った事実だった。
確かに、前から和希と倉田さんが喧嘩してるのは知ってたけど、正直毎日だとは思っていなかったから驚いた。
見ると、その喧嘩はいつも倉田さんが発端だった。
「和希、あんた馬鹿でしょ」
ある日の昼休みだった。和希が健太郎とガムテープを丸めたボールを手で打ち合う変なゲームをやっている最中、急に倉田さんが入ってきたのだ。
和希達を見てケラケラ笑っていた礼二くんと僕は、笑うのをやめた。
「あーもう、なんなんだよゴリラ!今いーとこ…つかお前さっき馬鹿つったな!」
「言ったよ。だってあんた本当に馬鹿なんだもん。馬鹿に馬鹿って言っちゃ悪い!?」
なっ、と言って和希の顔が赤くなる。僕は焦った。それは、和希が本気でキレる時になる特徴だからだ。和希がキレると洒落にならない。
焦る僕を余所に、倉田さんは尚も馬鹿にしたように続ける。
「あんた、さっきのテスト28点だったじゃん」