お兄ちゃんの気持ち
「今日は来てくれて、ありがとう」

食事のお礼を言おうと口を開きかけたとき、カウンターの中で洗い物をしている彼女が俺のほうを見ずにそう言って。

「食べてくれてうれしかったよ」

洗い終わった食器を拭きながらちらっと俺を見た彼女の顔は、何とも言えない表情で。

恥ずかしそうで、少しだけさみしそうな顔。

どうしてそんな悲しい顔をするのだろう?

もっと笑顔が見たいのに。

椅子から立ち上がった俺は、彼女が作業しているカウンターの中へとゆっくり歩いた。

「え、浅野君?」

近くまで行くと、戸惑った表情の彼女が俺を見ていて。

「椎名さん」

そっと手を伸ばして彼女の頬に触れる。

やわらかくて温かい彼女に触れた指先が、少しだけ震えていた。
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