彼と僕の横顔
二ヶ月間くらいは本当に仕事の出来ない自分との戦いだった。毎日がだるくて、仕事へ行きたくない思いと戦う朝。中学の不登校時代を思い出したりした。けれど、三ヶ月を過ぎた頃からだろうか、僕の記憶はそこから始まる。野崎さんを、初めて見た日。
人事異動の多いこのスーパーは一年かそこらで別の店へと異動することが多い。野崎さんは、僕が入って三ヶ月になろうとした頃、この店へ異動してきた。惣菜のサブチーフで歳は二十三歳。挨拶の言葉は覚えていないけれど、あの笑顔だけは忘れない。
接点もないだろうと思っていたが、僕の仕事は仕分けと少しの品出し。その少しの品出し作業が、惣菜だった。慣れない僕は桜井さんがいないといつもパニック寸前で慌てふためいていた。そんな時に、野崎さんが掛けてくれた言葉。
『大丈夫』
魔法の言葉のように、それは身体へと吸い込まれ、僕は野崎さんを意識するようになった。笑った顔がどこまでも広い空のようで、さらさらの黒髪は触れてみたくて。初めての気持ちにとまどいを隠せなかった。

ズボンのポケットに入れている携帯が震えだす。荷物を急いで片し、画面を開く。
『おはよ。あんまり無理するなよ。』
僕は一体どんな顔でこの文面を読んでいるのだろう。携帯を握り締めたままその場で立ち尽くし、言葉に出来ない想いを鎮めるのに全力を注いだ。
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