Strawberry on the shortcakes




「2月の末にドイツから両親が帰国するので

私はここに来る前に住んでた街に戻ります」




「そう」



短く呟いた先生は一度うつむき



顔を くしゃくしゃに崩し

本当に、

それは本当に嬉しそうに

満面の笑みを浮かべ



「良かった、良かったなぁ絆

家族は一緒にいるのが1番いい

良かったよ、本当に」



その言葉に一点の曇りもなく


心の底から安心したようだった




私は一体 何を期待してたんだろう



先生に私は何を


何を期待していたの?




ぐしゃぐしゃに何かが砕け散る
胸の奥



先生は その大きな手のひらを
こちらに伸ばし



私の頭を撫でた



「良かった。向こうに行っても
元気で」



「………はい。先生も」



「うん」



先生は笑顔を崩さずに
保健室を出て行った


カーテンの向こうで
バタンとドアが閉まった音を聞き



静まりかえる室内



横を向くと


さっきまで先生が座っていた椅子がある



「良かった」と笑った先生の残像がそこに



真っ白な天井に視線を移すと
涙でにじんで全てがぼやける



私は何を期待していたの?



寂しいと


私がいなくなったら寂しいと


行かないで欲しいと


そう思って欲しかった



あんな風に
笑わないで欲しかったよ
先生




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