あの男は私に嘘をつく
先生からそっと離れ、向き合った。








先生の顔をまともに見たのは、これが初めてだった。暗闇のなかでも手をとるようにわかる。先生の輪郭、髪、鼻筋……、すべてが闇のなかに浮き出ていた。










「先生が好きなの。」











「私、あの人の代わりにはなりたくない。私だけを見てよ……。」










睨むように先生を見る。でも、先生はただ、ふっとほほ笑むだけだった。









「??」











私には笑った意味が分からず、そして何も言わない先生に対して食ってかかった。










「なんで何もっ………!!!」








唇に軽く何かが当たった。先生の顔が離れていくのを見て、それがなんだかわかった。顔が熱い。一気に体温が上がったせいか、くらっとした私を、先生が支えた。


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