あの男は私に嘘をつく
工藤と顔が近かった。工藤の息が私の顔にかかるのが分かるくらいに。




工藤が不敵に笑う。
そう、これがあのときの笑み。




「なに…??どきっとしちゃった??」




そう言いながら、私の顎を持ち、上に上げ、工藤と目が合った。




「どうする??キスでも…しとく??」






ぱんっ







「ふざけんなっ!!!ナメんな、このへなちょこっ!!!!」




息が上がる。








息苦しくなる。








放った平手打ちは、見事に工藤の頬に当たり、赤くさせた。
工藤がこっちを見る。




ダメ、怯んだら…。私は悪くないもんっ……。






「ごめん、ふざけすぎたよ。」





工藤は手を上げ、降参のポーズをした。そして、また椅子に腰かけ、今度は私のほうを向いて座った。





「………その人、先生の彼女??」






目が合う。少しだけ、静かな時間が流れる。
そう、初めて騙された。このとき、私はこの沈黙を疑いもしなかった。
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