あの男は私に嘘をつく
そ、そんな渡しかたしなくても……。
私は答案を受け取り、そのまま俯いた。





「何してもらおっかなぁ。」





工藤は椅子に腰かけたまま、大きく背伸びをした。ただでさえ、長身なのに、さらに大きく見えた。





「じゃあ……。」






工藤はこっちを見て、私に近づいてくる。だんだん、距離をつめて、私の顔は工藤の顔まで、ほんの数センチしかなかった。





近い。






近いってば。






工藤は目をそらさない。
ずっとそうなんだ。
工藤と目が合うと、石みたいになって、変にドキドキして。
目をそらさないから、余計に症状が悪化する。







今もそう。







私はとうとう背中が壁についた。ひょうしに頭を打ったけど、工藤は何も言わない。
ただ…、見つめるだけ。






『もう逃げれないよ。』







工藤の目がそう言ってるようで、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。





どうすれば……???
< 19 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop