あの男は私に嘘をつく
窓から射しこむ光がまぶしくて目が覚めた。そのまま壁にもたれて寝てしまったらしい。
我ながら器用だと思い、ベッドの横にある目覚まし時計を持って時間を確かめる。時計の針は10時を指していた。







思いきり学校始まってるし………。







頭をかきながら、時計をベッドに投げた。こんだけ遅れていると、焦る気にもならない。だけど、誰もいないリビングに降りて学校へ行く準備を始めたのは、学校へ行く楽しみができたから。








先生に会いたい。








素直にそう思えたからなんだ。









リビングは昨日とはうってかわって、きれいに片付いていた。床にこぼれたビールも一滴も残ってないし、テーブルの空き缶もゴミ箱に捨ててあった。けれど、そこに母の姿はない。誰かから呼び出されて、その人の家にでも泊まったんだろう。あの母なら、容易に想像できることだった。……想像できてしまう今が悲しくて仕方ない。










お父さんが出て行ったあの日―――。










あの日から歯車が狂ったんだ。音を立て、軋み始め、今では油をさして、支える歯車を頻繁に入れ替えることで、やっと保っていつカンジ………。その支えは―――、私じゃ足りないんだね……。






私は自嘲気味の笑いを浮かべ、鍵をしめ、いつもの学校へ向かう道を歩き始めた。
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