あの男は私に嘘をつく
「それって何が違うの??」











「忘れたくない、てのはね、自分の意志みたいなものが詰まってると思わない??」











コップがずらりとカウンターに並んでいる。いつの間にか、コップを拭き終わり、次はワイングラスを拭き始めていた。












「……意志??」













「忘れられない人っていうのは、いつまでも自分を縛り付けているカンジで、なんだか…悲しいじゃない。」












コップを拭く手をとめ、大きな目をこちらに向け、微笑んだ。












「恭子ちゃんには、忘れたくない人がいるの??」













忘れたくない………人。














私は何も言わずに店を出た。乱暴に閉めたドアに、少し罪悪感を感じたが、今はそんなことどうでもよかった。












なんで走ってるの??












どうしてこんなに必死になってるの??













誰に私は逢いたいの??
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