そんな優しさならいらない
おまけ




「なぁ」

「ん?」

小説を捲る手を止めてわざわざ僕の手術を見届けるためにこんな遠くまで来てくれた親友を見る。本当、良い親友を持ったなと我ながら思う。

「明日、なんだろ…手術」

「そうだね」

控えてる手術のせいでここ数日間、まともに食事を取らせて貰えなかったことをふと思い出した。
もうぐぅとも鳴らなくなったお腹を擦り「早くお腹いっぱいのご飯食べたいな」と呟いた。もちろん愛しの奥さんの手料理が食べたい。

「良いのか…その、」

奥さんに言わなくて、と気まずそうに聞く。僕が病気の事を言ったのは彼だけだ。両親にも、妻にも言わずただ“出張”とだけ告げて遠く離れたこの大学病院に入院して来た。

「言ったら、悲しませちゃうからね」

「そんなの、後で気付いた方が悲しいに決まってるじゃないか」

僕のことをこんなに親身に考えてくれる彼には悪いが、どうしてもこれだけは譲れない。

「成功率は10%、たったそれだけかもしれない。でも、僕はその10%の中に入る気だよ」

僕のせいで彼女を泣かせるなんて、そんなの考えるだけで気が狂いそうだ。

「僕は、絶対に妻の元に帰る。生きて、ね」

今にも泣き出してしまいそうな親友に微笑んだ。きっと、苦笑いに近かったと思う。それでも無理矢理笑って見せた。

「お前は本当に馬鹿野郎だ」

彼はそう言うと笑い返してくれた。




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