そんな優しさならいらない
本当を言えば僕だって恐い。たった10%になんの希望を託せと言うのだ。90%の確率で死んでしまう手術。でも今彼女がこの場にいたならこの不安をぶつけてしまう。
どうしてもそれは避けたかった。
夫としてのプライド。
「僕がもし、もし戻ってこれなかったらさ荷物いれてる鞄の中に手紙がある。両親へと妻にそれぞれ届けてやってくれないかな…」
出来れば、早めにと言うと彼は背を向け肩を震わしてしまった。でも小さな声で「任しとけ」て言った気がしたから「ありがとう」と震えるようなか細い声で返した。
僕の頬を伝って白いシーツに吸い込まれてく涙。男二人して何やってんだか、と苦笑しながらも今日だけはと大人になって初めての大泣きをした。
それはもう、子供のように。
手術は明日。
死ぬ確率は90%。生きる確率は10%。
逢ったら力一杯抱き締めるんだ「愛してる」と囁きながら。
嗚呼、早く君に逢いたいな。
-end-
→後書き