消える前に伝えたくて
飛房はお墓の前に座った少年をじっくりと見つめる。
見つめれば見つめる程、飛房の心の奥で、言い切れない程の言葉が溢れ出して来た。

「あのね、僕いっぱい伝えたい事があるんだ」

少年に聞こえるはずの無い声が、虚しく空を振動させる。
やがて、吐き出しきれない感情が心に言葉の吹き溜まりを作り上げた。

少年との思い出を一つ思い出す度、少年の言葉を聞く度に、吹き溜まりは心の雨となり、空色の涙へと姿を変える。

一つ、また一つと涙はこぼれ、飛房が流す心の雨が地面を指すと、雲は悲しみの雨を降らし始めた。

「泣かないでよ、飛房」

「違うよ。悲しいわけじゃないんだ、嬉しいんだよ」

「え……違う。じゃあ、嬉し泣きだ」

まるで、飛房の言葉が聞こえたように少年は飛房に言葉を返した。

「僕、ずっと耕太にお礼を言いたかったんだ」

そう言って、飛房は涙を止めた。

「ありがとう」

その瞬間、雨が止んだ気がした。

土砂降りの雨音を遮り、飛房の言葉が数メートル先まで響き渡る。
まるで、雨が止んだかのような錯覚を覚える程に……。

少年の体を濡らす雨は、黄色い傘で確かに遮られていた。
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