消える前に伝えたくて
雨音で消される声。
でも、どれだけ声が掻き消されても、少年は構わなかった。
幾度となく消されても、少年は声が届くまで叫び続ける。

「行かないで、飛房。僕の隣に居てよ」

今にも泣き出しそうな少年の声が、豪雨の僅かな隙間を縫って飛房の心に響いて行く。
少年は頬を伝う雨と一緒に、隠す様に涙を頬へと流した。

体の進みを遮り、数メートル先も見えない豪雨の中を、少年は必死に歩を進める。やがて、ぼんやりと形を成している飛房の前へとたどり着いた。

「消えるなんて許さない! 主人の僕が、絶対に許さないからな……!」

それは飛房が突然死んだあの日から、ずっと心に溜め込んでいた思いだった。

「泣かないで耕太。一緒に笑おう」

そう言って、飛房はにっこりと笑った。
少年が抱く悲しみを、全て取り払うかのように……。

飛房の言葉を聞き、少年は雨と一緒に流れる涙を腕で拭い、飛房に笑い返した。
すると、まるで少年と飛房を祝福するように降り注いでいた豪雨が消え、雲間から温かい太陽の光が二人を照らし出した。

「耕太……」

少年の父がぽつりと言葉を漏らす。
父と母が少年の笑顔を見るのは、約一年振りだった。
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