学園(吟)
吟ネエは二枚目のお好み焼きを食べ始めた。

いい汗をかいただけあって、食欲旺盛になっている。

本能のままに動く時の吟ネエが羨ましくも感じる。

誰かが用意した籠の中には絶対に入ろうとはしない。

そう、自由なんだよな。

食べる邪魔をするのも何だし、今日は風呂に入って寝よう。

「渚さん、先に風呂に入らせてもらいます」

「お風呂ならまだ誰も入ってませんから、今なら一番風呂ですよ」

「一番風呂、いいんですか?」

「ええ、ゆっくりしてきてください」

「ありがたく頂きます」

吟ネエや渚さんの入った後の方が良いなどと、マニアックな事は言わないぞ。

ましてや、そのお湯を飲みたいなんて。

言わないぞ。

自分の食べ終わった皿をシンクに置いて、風呂場へと向う。

脱衣所に着くと、服を脱いで風呂へ突撃。

その前にかけ湯をして、風呂の中に入る。

「ふう」

湯気が風呂場を包み込み、無音の世界に一人いる。

考え事をするには打ってつけだろう。

今日を思いだしてみる。

吟ネエの初めての表情。

「気になるな」

平然を装うつもりではいたんだけど、本当はすぐにでも聞きたい。

食事を食べている時の吟ネエの顔を見た時から、深いところまで知りたくなったからだ。

でも、聞きにくいんだよな。

「あー!くそ!」

風呂のお湯に拳を叩きつける。

平らな水面は波紋を描いて、自分の顔が揺れて形が崩れる。

まるで、自分の気持ちを表しているかのようである。

自分の中のモヤモヤが大きくなっていく一方だった。

以前は、気持ちがうろうろしてたから小さいままで留まっていた。

これほど、不透明な物に支配されるなど思いもしなかったぜ。
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