学園(吟)
「吟ネエの気持ちを聞きたい」

吟ネエの瞳を真正面から捉える。

「お前は焦らすのが得意な奴アル」

「いや、評価じゃなくて」

「さて、どうかなアル」

「はぐらかさないでくれよ」

「私に気持ちを聞いたらどうするつもりアルか?」

そこにあるのは、俺を試すかのような瞳。

「それは」

好きだったら、どうするんだろう?

何も考えてなかった。

「今のお前では話にならないアル」

吟ネエはシャワーをするわけでもなく、先に風呂から出てしまった。

一人ぼっちになった気分だ。

「く」

結局、答えてくれなかった。

謎ばかりが増えて道がわからない。

最初の頃よりも、重く、辛く、ほんの少しだけ泣いた。

自分の弱さが嫌になる。

何も思い出せない、自分の記憶力の悪さも嫌になる。

その後、涙を流すかのようにシャワーを浴びて風呂から出る。

Tシャツとジャージの格好をしながら、廊下でタオルを持った渚さんとすれ違う。

「今から入るんですか?」

「ええ、お湯加減はどうでした?」

「良かった、です」

風呂の記憶を思い出して、言葉に詰まった。

「辛い事でもあったんですか?」

落ち込んでいる気持ちが顔に出ていたのか。

それを読み取った渚さんが俺の頬に掌を当てる。

「辛いのなら、泣いてもいいんですよ」

「いえ、大丈夫です」

風呂場で少し泣いた分、渚さんの言葉を受けても我慢することが出来た。
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