学園(吟)
渚さんに挨拶をすることなく、俺も家から出る。

「待ってくれよ!」

吟ネエの走る速度は、チーターのように速い。

男の俺が追いつけるかどうかすら謎だ。

時には道路と川の区切りである金網の上を走っていくのだが、速度を落とさない。

異常に発達しているバランス感覚が可能にしているのか。

何ていうか、ちょっと運動神経がいいレベルじゃない。

木上サーカス団に入って、芸を披露しても違和感を感じないだろう。

でも、絶対にやらないだろうな。

走りながらも、吟ネエの将来について考える。

AV女優とか、フードルになっていそうで怖いな。

まあ、吟ネエなら天職なんだろうけどさ。

普段やらない事をやってしまう、気まぐれって奴は怖いな。

普通の事ならまだしも、普通じゃないからな。

「はあ、はあ」

余裕があるのにも関わらず走っていたせいか、普段着く事のない時間に到着してしまった。

吟ネエは息を切らすことなく、あくびをしながら学校の門を抜けていた。

もちろん、酒瓶は鞄の中にあるんだけどな。

しかし、吟ネエの事を、男子学生が珍しそうに見ている。

何故なら、こんな時間に吟ネエが来るはずがない。

俺にも視線が向いているのだが、敵意でしかない。

主に、相手にされなくなった男達からだ。

その中で、校舎に歩いていく龍先輩の姿を見つける。

「吟ネエ、龍先輩だよ」

「そうアルな」

吟ネエの表情が一瞬にして曇ってしまった。

「一緒に行かないの?」

「行きたければ行けばいいアル」

もしかして、酒の所持がバレる可能性があるから、近づこうとしないのか。

「龍せんぱーい」

「貴様!私の生命の源を奪うつもりアルか!?」
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