学園(吟)
「ん?」

龍先輩は背後を見るのだが、そこには俺と吟ネエの姿はない。

そう、俺は人通りの少ない校舎裏に拉致されたのだ。

龍先輩は不思議そうな顔をして、再び校舎へと歩いていった。

「むー、むー!」

顔面を胸元に押し付けて声を出せないようにしているのだが、手で口を押さえるだけでいいんじゃないかと思う。

顔に当たっても、弾力があって柔らかい。

でもね、息が詰まるの。

このままじゃ死んでしまう。

「二度とオイタはしないアルか!?誓わなければ、胸の中で昇天するアル!」

良い気分なのか、悪い気分なのかわからない。

「にゃあ」

俺が昇天しそうになっている中、とても可愛らしい声が聞こえてきた。

今の状況で吟ネエが甘えた声を出すわけがないので、モノホンの猫だろう。

「お前は、ロベリアアルか」

吟ネエと猫は顔見知りなのか。

吟ネエは猫にロベリアと名づけているようだ。

猫のおかげで気がそれたらしく、腕が緩んだ。

チャンスを狙い、天国のような地獄の場所から抜け出した。

「はあ、はあ、本気で殺す気かよ?」

「罪は重いアル」

もう一度行えば、今度はどんなことが起こるのだろうか。

少し気になったが、やらないほうが身のためだ。

それより、命の恩人のロベリアはどこにいるのか?

吟ネエの足元で、黒猫が礼儀正しく座っていた。

もしかして、数日前に見かけた黒猫ではないのか?

今まで吟ネエに殺される事なく、生きていられたのか。

しかも、名前まで与えられて、可愛がられているらしい。

「中々利口な奴アル。お前は私のお付きにしてやるアル」

「にゃあ」

吟ネエは座り込み、ロベリアの頭を撫でる。

ロベリアは気持ち良さそうにして、しばらく撫でられ続けた。
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