学園(吟)
「ごめんな、お前に痛い思いをさせるところだった」

「にゃあ」

ロベリアは猫であり、声に意志を込めることは出来ない。

なので、何を言っているかわからないし、意味のない事なのかもしれない。

でも、俺には『別にいい』と聞こえてきた気がした。

もちろん、都合のいい解釈だ。

「にゃ」

ロベリアは一通り可愛がられて満足したのか、挨拶をしてどこかへと歩いていった。

随分、ロベリアとの時間を堪能していたような気がする。

気付けばチャイムが鳴っているしな。

「吟ネエ!ゆっくりしてる場合じゃないぞ!」

辺りに吟ネエの姿がない。

ロベリアに謝罪をしている俺を置いて、先に自分の教室に行ったのだろう。

「嘘だろ!?」

ロベリアの危機を救ったのはいいけど、俺の危機は放置かよ。

絶対にチャイムが鳴るって知ってたよね。

もしかして、昨日何もしなかったから、本当は欲求不満で怒ってるのか?

それとも、龍先輩を呼んだ罪は本当に重かったとか?

でも、いつもと変わらないような気がするんだけどな。

ネチっこい性格じゃないから、状況に飽きたので先に向っただけなのかもしれない。

「ああ、くそ!」

高井教師に怒られるってことぐらいは、誰しもわかっている。

でも、歩いていくのと走っていくのとでは大違いだ。

走ったフリで行くのもまた違う。

はっきり言えば、こういう場合はちゃんとしておきたいんだ。

猫と戯れて遅刻とかしてしまうけど、几帳面な部分はあるんだぞ。

なので、俺は走って教室へと向った。

廊下に人通りはなく、教室に辿り着いた時には朝のHRが始まっている。

「おいおい、葉桜よお、堂々と前から入ってくるとは、勇気あるじゃねえか」

高井教師は定時連絡を邪魔された事で気だるそうな顔に早代わりする。

「すいやせん」

平謝りしながら、自分の席に着席した。
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