学園(吟)
俺も、主に朝生教師の顔を見ながら、黒板の可愛い文字を書き取っていった。

しばらくして、終了のチャイムが勉強という束縛から解放させた。

朝生教師に手間をかける奴は一人もおらず、質問に対しても、やる気のない奴ですらしっかりと答えるという違和感を覚えさせる。

そこまでして、気に入られたいかと思ってしまう。

高校生になれば、イタズラをして気に入られようというよりは、やる気を見せて気に入られた方がいいだろう。

「では、今日の授業、終わります」

朝生教師が教壇に広げた教科書を片付ける最中、男女数名が質問に答えてもらうために傍に集まっていった。

物静かな先生なんだけど、何故か女の子にも人気がある。

俺も綺麗な先生だとは思うけど、のめり込む程ハマっていない。

「さて」

休み時間になったが、どうするか。

毎回毎回、3年の教室に行くのはストーカーと同じ行為である。

それに、あまり付きまとわれるのも、吟ネエにとっても嫌気がさすだろう。

毎日、家で顔を合わせてるんだしな。

まあ、昼休みになったら、吟ネエでも誘ってご飯を食べに行こう。

そう決めると、俺は用を足しにトイレへと向かった。

教室に帰ってきて中に入ろうとすると、見知らぬ男子生徒に声をかけられる。

スリッパの色を見ると、俺と同じ学年ではない。

「葉桜先輩ですよね?」

先輩と言うところ、今年入った一年なのだろう。

「何?」

「あの、葉桜吟先輩にこれを渡して欲しいんですけど」

一枚の封筒を手渡される。

明らかにラブラブレターとかいうやつだろう。

「俺に話しかける勇気があるなら、吟ネエに話しかけることぐらい出来るだろ」

俺が吟ネエに対してどう接したら上手くいくか迷っているのに、他人の世話まで見てられない。

それに、目の前の男は可愛い系だろうか。

多分、これを渡せば、確実に手を付けるだろう。

俺が貰って破けば吟ネエの手に届かないが、そこまで陰湿な行為をしたくない。
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