学園(吟)
気持ちは解らないでもない。

だからといって、頷く事は出来ない。

自分で考え、自分で行動し、自分で結果を得る。

成功や失敗、どちらに進んでも成長のために必要なものだ。

俺が吟ネエに渡してしまえば、結果は出るものの、前二つの経験は得られず成長は妨げられる。

優しさは甘えと大きく違う。

自分に厳しく生きなければならない時もあるのだ。

正直なところ、見ず知らずの人間の手助けをするほど優しさを持ちえていない。

「吟ネエは強い男が好きなんだ。他人の力を借りて成功させようって奴は強いと思うか?」

「そんなこと、ないっす」

「だろ?だから、コレは自分で渡さなくちゃならない」

俺は見知らぬ男子生徒に手紙を返した。

男子生徒に手を貸す気はないのだが、ヒントを与えてしまったようだ。

「自分が馬鹿でした。先輩から渡してもらえば少しは上手くいくかもしれないなんて考えてて。でも、自分でやらなくちゃ意味ないですよね」

男子生徒の中では燃える闘魂が漲り始めたようだ。

「そうだな」

「俺、先輩の優しさを無駄にしないためにも、絶対成功させてみるっす!」

「そこまで気張らなくてもいいぞ」

「いえ!俺、頑張るっすよ!」

大声を出されると、クラスメイトの視線を集めて、辱めを受けているようで迷惑だった。

やる気は買いたいが、心の中では失敗して欲しいと思っている。

成功したって、俺には損しかないじゃないか。

くそ、何で敵に塩を送るような真似をしてしまったんだ?

これでは、後悔先に立たずだ。

絶対、失敗するというような保証がどこにある。

不安な気持ちが膨らみ始めてきた。

言っておくが、俺は自信家ではない。

自信があるのなら、もっと素早くわかりやすい行動を取っている。

「はあ」

ため息と共に、休憩時間が終わるチャイムが校内に鳴り響いた。
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