学園(吟)
「あー、やっと終わりやがったか」

加藤教師が退室した後に、机の上に覆いかぶさる。

緊張で体が固まっていたのか、節々の動作がぎこちない。

今日一日分の集中力は使ったんではないだろうか。

後半の授業をちゃんと受けられる気力は残っていない。

それに、最初の問題が残っている。

「吟ネエ」

まだ昼休みまで、二時間もある。

今すぐ行こうか。

「駄目だ」

首を振りながら、吟ネエの元に向う体を必死に止める。

おあずけを食らった犬みたいに、我慢して喜びをアップさせたいんだ。

「ん」

横の乾から、割り箸についた赤い練り飴が差し出される。

乾の机の上には縦横10センチくらいの正方形の瓶があり、中にはぎっしりと赤い練り飴
が詰め込まれている。

乾は割り箸で黄色いクマがハチミツを舐めるように、美味しそうに口に含んでいた。

「くれるのか?」

「葉桜は面白い。だから、おすそ分け」

「俺からしたら、お前のほうが面白いよ」

練り飴を食える心境ではないのだが、乾の厚意を無駄にするほど残酷でもない。

「ありがたく貰うよ」

赤い練り飴だからリンゴ味かと思っていたら、トマト味だった。

練り飴にトマト味は危険すぎる。

どこの駄菓子屋が人の味覚と内臓を破壊するような危険因子を生み出したのか。

「なあ、全部食うつもりか?」

「ん」

きっと、乾は七色の味覚と鋼鉄の胃袋を持っているんだな。

最終殺人兵器TOMATOのせいで、ハイアンドローゲームに負けたときのようにテンションが下がってしまった。

俺は、乾が容赦なく練り飴を食べていくのを見つめながら、休み時間を過ごしていった。
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