学園(吟)

夕刻

俺は、走っていた。

何がどう楽しいのかは解らないけれど、女の子の背中を追いかける事に集中していた。

女の子は、俺よりも年上で、とても活発な女の子だった。

自分の家の近所に住んでいて、いつも遊んでもらっていた。

女の子には他に友達という友達がいなかった。

いや、作らなかったというべきだろうか。

ただ、俺だけは傍に置いてくれていた。

「お前のニオイは嫌いじゃない」

ニオイフェチかなにかでもあるのかとも思っていたが、そうではないらしい。

女の子と同じ小学校に通っており、登校も下校も一緒だった。

時折、変な噂が立った事もある。

小学生といえば、相手をからかう事を何とも思いやしない。

それが、男女の事ならば、尚更。

でも、俺は、悪い気はしなかった。

恥ずかしいから、女の子の事を遠ざけるような言動を発した事はなかった。

女の子も気にした素振りを見せなかった。

それ以上に、皆の前で口付けをかわすくらいの事をやってのけるほどであった。

他の男子からいちゃもんを付けられれば、難なく跳ね返していたし、何ら問題はなかった。

そう、お互いに何も変わることはないと思っていたのだ。

でも、永遠には続かなかったのだ。

親の都合で引越しする事になり、女の子と別れる事となる。

とても、よくある話しだと思う。

そして、最終日。

俺は、女の子の背中を追い続けていた。
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