学園(吟)
「お前は本当に無駄な苦労をしてきたな」

吟ネエは俺の背中に腕を回す。

「私はお前を受け入れる気持ちはあったんだ。なのに、お前はウジウジとして、みっともなかったぞ」

「ごめんな。俺、吟ネエに他の皆と同じように行きずりな関係だけには、なりたくなかったんだ」

「そうならないようにお前は努力をしたんだろう。それに、これからも努力をするんだろう?」

「俺は、吟ネエの事を沢山知っていく。沢山喜ばせていく」

俺は吟ネエから身を離し、瞳を見つめる。

吟ネエの青い瞳が、潤んでいるようだ。

初めてというわけではないけれど、俺は吟ネエと口付けをかわす。

酒のニオイをさせながらも、心地の良さを感じる。

今まで突拍子もない口付けだったが、今は自分の意思でしている。

軽いキスから、ディープなキスまで。

「ふう」

目の端に何かが移る。

「渚さん」

入り口付近で顔を覗かせている、眩しいくらいの艶を持った渚さんがいる。

「嫌ですわ。気付かせるつもりはなかったんですよ」

手に持っているのは、愛のゴムらしい。

「これ、よかったら使って下さいね」

何事もなかったかのように机の上にゴムを置き、引っ込んだ。

「あんなに平然としてるとは」

「あ、丞さん」

「のわ!」

再び渚さんが顔を出す。

「穴は開いてませんから、安心してください。それと、私達、少しでかけてきますから、大きな声を出しても恥ずかしくないですよ」

理解してくれているのはありがたいものの、全く要らない説明だ。
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