Symphony V
唯の叫ぶ声を聞いたレオンと警官数人が側に駆け寄ってきた。

「どうしたんだ!」

レオンに言われて、はっと我に戻る。

「ううん、何でもない」

唯の言葉に、レオンは少し怪訝そうな顔をした。

「そんなわけないだろ。さっきお母さんって叫んでたじゃないか」

言われて唯は、体をびくっと揺らす。表情は強張り、手にはじっとりと嫌な汗をかいた。



【今夜0時、ヒラツカ山に一人でこい】



電話の主の声が頭の中でリフレインする。
手に持っていた携帯の液晶画面を見ると、時刻は22時を回っていた。

「唯?どうしたんだ?何があった?さっきの電話は」

「なんでもない!」

レオンの言葉を遮るように、唯は叫んだ。

「ゆ…い……?」


ごめん。本当にごめんね。



辛いとき、一緒にいて元気づけてくれて、心配してくれた。
昨日会ったばかりなのに、すごく優しくて。その優しさに甘えっぱなしで。
今だってこんなに心配してくれてるのに。


ふと顔を上げると、そこに悔しそうな表情を浮かべるレオンの姿があった。

「わかった。もう、何も言わない」

それだけ言うと、レオンは部屋を出て行った。
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