Symphony V
「ごめんなさい!その、レオンに迷惑をかけちゃいけないと思ったから、その…」

そう言ったあと、唯は言葉が続かなかった。


違う。
私は…自分のために……

『いいんだ、あいつはあいつで勝手にやってることなんだ。それが唯の邪魔になることもあるだろう』

「邪魔だなんて、そんなことは…」

違うと言えない自分が、嫌になる。

「あの、ところでどうしたんですか?」

唯が聞くと、キアリーはあぁ、と思い出したように話し出した。

『紅い蜘蛛に唯も狙われてるって聞いたからね。そんな君を一人残して戻ってくるバカ息子はちゃん怒っておくよ』

電話越しに笑うキアリー。さっきまでの出来事を思い出して、少しだけぶるっと体が震えた。

『紅い蜘蛛はかなり変わった奴だから、気をつけるんだよ』

「え?知ってるんですか?」

『あぁ、昔少しいろいろあってね』


こ、殺し屋といろいろって何!?


唯が言葉を失っていると、まるで心を見透かしているかのように、キアリーが続けた。

『命を狙われたわけでも、依頼したわけでもないから、安心して』

ますます繋がりが見えてこない。

『とにかく、一人でいるのは危険だから。落ち着いたらバカ息子にでも連絡してやってくれないか。もちろん、僕でもいい。君の側にいるよ』

その優しさに、少しだけ救われた気がした。

「…はい。ほんとにありがとうございます」

『気にしないで。我慢なんてしなくていい。辛いときは誰かに甘えればいい』

「…あり…がと……」

嗚咽と共にこぼれた涙をぐっとこらえる。唯は、深く頭を下げた。
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