Symphony V
「ほら、これ」

巧が箪笥の中からジャージを取り出して唯に渡す。

「部屋の外にいるから、着替え終わったら呼んでくれ」

そう言って、巧は部屋から出て行った。

「ありがとう」

唯は呟くと、着ていた制服をとりあえず脱いだ。


な、なんだろ。めっちゃ恥ずかしい気がする。


急いでジャージに着替える。想像以上にぶかぶかなズボンの裾を数回折る。


…巧くん、中学校時代は身長そんなに大きくなかったはずなのに。


はぁ、と少し感心しながら、制服をたたんで部屋のドアをあけた。

「巧くん?」

声をかけてみるが、廊下には誰もいなかった。


おかしいな、巧くん、どこに行ったんだろ。


人の家だし、あまりうろちょろするのは良くないだろうと思い、部屋の中にひっこんだときだった。

ぱたぱたっと小走りする音が聞こえてきた。唯が振り返ると、そこには巧がいて、いきなり唯の両肩をつかんできた。

「お前!一体何があったんだ!」

さっきまでとはまったく違う、真剣そのものといった表情を浮かべる巧。唯が目をぱちぱちさせていると、たくみはバタンと扉を閉じて、唯をベッドに座らせた。部屋に置いてあるテレビの電源をつける。と、しばらくして映ってきた映像は、唯の家の側だった。

「…………」

言葉が何も出てこなかった。
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