Symphony V
「ごめんね」

真っ赤に目を腫らして唯が言うと、巧は少し笑いながら首を横にふった。

「落ち着いたか?」

聞かれて唯は、こくんと頷いた。

「疲れた…」

一体どれだけ泣いただろうか。もう涙は枯れたと、何度も思ったが、次から次へとあふれてくることに、唯は少しだけ驚いた。

巧は唯に、スポーツドリンクの入ったコップを渡してきた。

「とりあえず、水分取っとかねーとな」

にかっと笑う巧に、唯は少しドキッとした。

「ほんとにごめんね、ありがとう」

一口こくんと飲み込む。冷たい液体が、体中に染み渡っていくようだった。

「…あのね、実は」

巧に全ては話せなかったが、ところどころかいつまんで事情を説明した。

母親と父親らしき人物が家で遺体で発見されたこと。
犯人らしき人物から電話がかかってきて、そのときに母親の声が聞こえてきたこと。
どうも5年前に家族で行った旅行に、今回の事件の鍵があるらしいこと。

巧はその話を、笑うこともなく、真剣に聞いてくれた。
それだけで、唯は少し、嬉しくなった。

「じゃ、お前の母ちゃん、生きてるかもしれないんだな」

巧の言葉に唯は頷いた。
そう、信じたかった。

「じゃさ。まずはその5年前の家族旅行のこと、調べてみようぜ」

「え?」

「え?って…そのことを調べようとしてんじゃねーの?」

「いや、そうだけど…」

きょとんとした顔で聞いてくる巧に、唯は驚いた。

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