Symphony V
「とりあえず、お前これからどーすんの？」

巧に聞かれて、うーん、と唯は唸った。

「…どうしよう」

テレビに映っている様子を見る限りでは、明らかに自分は家に近づくことが出来ない。真夜中だというのに、ありえないくらいの人が、自分の家の周りに溢れかえっている。
テレビのワイドショーや、ニュース、ドラマの中でしか見たことのない光景。どこか現実味が感じられなかった。


ほんとに現実なのかな。


夢の中を必死でもがきながら過ごしている感覚になる。自分にとっては、今起こっていることは、何もかもが非現実的すぎて、うまく、現実をより分けることが出来なかった。

「とりあえず、家に帰らないと…黙って出てきちゃったし」

と、そのとき、けたたましく携帯のコール音がした。

「うひゃぁ！」

思わずびくっとなり、隣にいた巧に抱きつく。そろそろと音の振り返ると、制服の中で、チカチカときれいなグラデーションが映し出されていた。

「わ、忘れてた…携帯」

心臓がものすごい速さで鼓動する。

「と、とりあえずとってこいよ」

巧に言われて、唯ははっとなり、慌てて離れて携帯を取りに行く。


うわ…恥ずかしい。どうしよ、抱きついちゃった…


顔がかぁっと熱くなるのがわかった。
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