Symphony V
ロビーの長椅子で頭を抱えて座っている唯。その姿を見ると、巧は声をかけることができなかった。


小さなころの記憶が、少し曖昧だってことは知ってた。
だけど、別に気になったこともないし、思い出す必要もないと思ってた。


お父さんもお母さんも、そのあたりのことに関しては触れてきたことはなかったっけ。


頭をがしがしっとかく。

「あぁ!もう!」

ふぅ、と深いため息をつく。

「…おい、唯」

巧が声をかけたときだった。

「唯!」

聞き覚えのある声の方を見る。
と、ぎゅっと抱きついてくる人がいた。

「ちょちょ!」

バランスを崩して倒れそうになる唯。

「おい!何だよあんた!」

巧がレオンの肩をぐいっとつかんだ。

「ん?なんだ?」

邪魔をするなといわんばかりの顔をするレオン。巧は思わず怯んだ。

「レオン、離して…苦し…」

ぱんぱんっとレオンの背中をタップする。

「あ、ごめんごめん。ところで」

『こいつ誰?』

レオンと巧の声がハモッた。
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