Symphony V
入ってしまえば、さっきまでの混雑が嘘のように、人がいなかった。
正確には、すでに席についているようで、ロビーには人があまりいなかったのだ。

何度か利用したことがある唯は、自分の座席をチェックすると、一旦、ロビーにでて、長椅子に座って一息ついていた。


外はすごかったけど…あれ、全員が全員、ライブ観れるわけじゃないんだよね…


明らかに、会場の座席数より人の数が多い。もともと小さな会場で、収容人数も500人程度。チケットがとれただけでも、奇跡に近い。

「なんでここでライブなんだろ」

不思議そうに呟く。

「でもまぁ、ありがたいじゃん」

急に隣から声がして、唯はびっくりして声の方をみた。

「えっ…稜夜先輩!?」

見たことのある顔。少し髪の色が薄茶色になってはいたが、見間違えるはずがない。

「え?俺のこと、知ってるの?」

聞かれて大きく頷いた。

「お、同じガッコなんで」

出てくる声がひっくり返らないよう、必死で言葉を紡ぐ。

「そうなんだ。何年生?3年…じゃないよね?」

言われて、震える声で答えた。

「1年デス」

すると稜夜は、あぁ、と頷いた。

「そういや、1年でチケットが当たった子がいるらしいって、誰か言ってたな」

思い出したように稜夜は言うと、にっこりと笑って座席を聞いてきた。

「さ…最前列の17番です」

「ほんとに?俺、隣だ。ほら」

稜夜に見せられたチケットには、確かにAー18と書かれてあった。

「ほ、ほんとだ!なんかすごいですね」

「ほんとだね。凄い偶然」

稜夜が笑う。その笑顔に、唯の心臓はばくばくと大きな音をたてる。

「そろそろ開演だし、席にいかない?」

言われて、唯は、顔を真っ赤にしながら頷いた。



今日の私、めっちゃツイてる!
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