Symphony V

Scherzo

【CRIMSON SPIDER】

向こうではそう呼ばれていた。
予告状を突きつけては、警察の厳重な警備をかいくぐり、多くのいわく付の美術品たちを盗んでいた。

まだガキだった頃の俺にとっては、彼はヒーローそのものだった。

そんな彼のことを、ネット上でたくさんの人たちと語り合ってた。
そんなあるとき、1人の日本人と出会った。それが稜夜だった。

稜夜は彼のことをとてもよく知っていて、すぐに仲良くなった。
メールやチャットでのやり取りしかしたことがなかったけれど、俺は絶対に、こいつとは親友になれると思った。

ある日、稜夜が彼のようになりたくないかと言ってきた。
もちろん、稜夜の言っている意味がわからなくて、最初は戸惑った。

だけど。

稜夜の話を聞いていくうちに、彼になれるんじゃないか。
そう、思い始めたんだ。

そして稜夜と知り合ってちょうど1年目の夏の日。
彼がアメリカに留学をするというのを聞いて、俺の家に招待した。
そして、2人で、初めて仕事をしたんだ。

彼の獲物だと知っていた。
その獲物を、俺たちが先に奪ったんだ。

たちまち、俺たちのことが記事になった。
彼のように、自分たちがやったっていう証拠を残したくて、双頭の犬のマークを描いた紙を現場に残した。

そしたら、周りがオルトスって名前を勝手につけて、そう、呼ばれるようになった。

最初は嬉しくて仕方がなかった。
彼のようなヒーローになったと思ってた。

けど、日が経つにつれ、だんだんと、優越感は不安と恐怖に変わっていった。

獲物にかけられた賞金、俺たちにかけられた懸賞金。
飛び交う大量の情報。もちろん真偽のほどは定かではない情報ばかりだった。

でも。

どこでどう、俺たちに結びつくかわからなかった。
そう思うと、しばらく、眠れない日々が続いた。
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