Symphony V
大好きなキアリーのライブを、憧れの稜夜先輩と一緒に観ている。


だめ、チョー幸せ!


最高のライブだった。予定時間を1時間ほどオーバーしていたが、まったくそんなことも気にならないくらいに素敵なライブで、このままずっと時が止まってしまえばと、そう思っていた。

「はぁ…もうさいっこう!」

興奮冷めやらぬといった雰囲気で、唯は目を輝かせながら、うっとりと誰もいなくなったステージを眺めていた。

「本当にすごかったな!キアリーのライブ。やっぱり生のライブはいいな」

稜夜も満足そうな表情で言う。

「キアリーのライブは初めて?えっと…」

あっ、と小声で唯が呟く。

「そういえば、私、自己紹介まだでしたよね」

少し恥ずかしそうに唯は言った。

「私、東峰唯っていいます」

そう言うと、稜夜はにっこりと笑って手を差し出してきた。

「よろしくね、唯ちゃん。とりあえず、そろそろ出ようか」

差し出された手を少し戸惑いながら見つめる。稜夜はにっこりと笑っている。恐る恐る手を取ると、稜夜は優しく手を引いて、唯を立ち上がらせてくれた。

「あ、ありがとうございます」

恥ずかしくて稜夜の顔をまともに見れない。自分でもわかるくらいに顔が熱い。

「ほら、足元気をつけて」

稜夜の言葉に唯は頷いた。


もうだめ。人生でサイコーの日だわ。


心臓の高鳴りが押さえられそうにない。ただただ、この心臓の音が、稜夜に聞こえていないことだけを祈った。
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