Symphony V
ホールを出たところで、唯は稜夜の手を離した。
本当は、ずっとつないでいたいところだったが、このままつなぎ続けていれば、多分、自分の心臓がもたない。そう思ったのだった。

「唯ちゃん、おなかすかない?」

「え?」

稜夜に聞かれて、唯はきょとんとした表情を浮かべる。

「軽くこれから、食べに行かないかい?」

稜夜に聞かれて、唯は目が点になる。

「予定があるならいいんだけど、どうかな?」

「よ、喜んで!」

こくこくと首を縦に振る。まるでどこかの居酒屋ばりに元気よく返事をした。稜夜はくすくすと笑う。

「そうだ、友達が一緒に…あっ…」

稜夜は言いかけて、止まった。唯は稜夜の視線の先を追った。

「先輩?どうかしたんですか?」

唯が声をかけると、稜夜ははっとした顔をする。

「あぁ…ごめん。なんでもない」

もとの稜夜の笑顔に戻る。首を傾げていると、稜夜はくすくすと笑いながら、なんでもないよ、と笑った。
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