Symphony V
事の起こりは、15年前に遡る。

当時、葵豊はまだ、現役の医者として活躍をしていて、ある1人の少女の主治医をしていたの。名前は、東峰あかね。東峰夫妻の1人娘だった。
少女はまだ5歳という幼さだったけれど、脳に大きな腫瘍を抱えていて、いつ死んでもおかしくない状態で、生まれてからずっと、病院から出たことがなかった。

けれど、少女はそんなことを微塵も感じさせず、毎日病院で、たくさんの患者に笑顔を与えていた。

彼女は病院にいる、みんなの小さなアイドルだった。


そんなある日、私は病院に担ぎ込まれた。
外出先で、予定より1ヶ月も早く破水してしまったの。慌てた夫は、すぐに私の所へ飛んできた。

病院に担ぎ込まれてから数時間後、私は予定より早い出産に入った。
夫は仕事が残っていて、すぐに出産に立ち会うことができなくて。
…慌てていたのね、きっと。そのとき最大の過ちを犯してしまった。

急ぐあまり、少女に投与する薬の指示を誤ってしまったの。
いつもと違う薬が出されれば、看護婦もおかしいと思うんだけど。
その日はちょうど、新薬で投与する薬を変更する予定の日だったの。

薬が違っていることに、何の疑問も持たず、もちろん、看護婦は指示された通りに薬を投与した。

そして。

少女はその日、亡くなり、私には1人の子供が産まれた。




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