Symphony V
唯がいなくなってからというもの、私達家族はバラバラになってしまった。

私は唯を失った悲しみを忘れることができず、まゆをかまってやれなかった。

夫は仕事に逃げるようになり、家庭をかえりみなくなった。

そしてまゆは…私達夫婦は、まゆへの罪悪感から、あの子を腫れ物を扱うかのように、接してしまい、そのせいもあってか、どんどんあの子はおかしくなっていった。

何度か傷害事件も起こし、その度に、謝りに行き、もみ消したわ。

だけど、私達には、あの子を叱る勇気がなかった。

あの子を引き取った、あの不純な動機を、あの子は知っているから。


5年の月日が流れ、私達親子の中から、唯の存在が薄れてきたある日。

高遠に呼ばれて、家族で北海道へと旅行に行った。

場所は、唯を引き渡した、あの忌まわしいホテル。

…一体、どういうつもりなのかと思っていた矢先。私達は、唯と再び顔をあわせた。

もちろん、唯は私達のことを忘れていたわ。
だけど、私達は忘れることなんてもちろんできなかったから。

あなたを見たとき、心臓が止まるかと思ったわ。

そして翌日。


あなたは交通事故にあう。



まゆが。
あなたの背中を押したのよ…
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