Symphony V
恐怖で体が震えた。
痛い、怖い、辛い、悲しい。
負の感情が、唯を支配した。

鈍く痛み続ける足からは、血がどくどくと流れ出てくる。手で必死で抑えるも、傷口を触る痛みが代わりに押し寄せてきて、悲鳴を上げないようにこらえるだけで精一杯だった。

意識が飛びそうになる。

けれど、まゆの自分への恨みの強さに、唯はただ、震えているしかできなかった。


乾いた音が鳴り響いたと同時に、唯野頬からつぅっと液体がこぼれた。

熱い、ちりっとした痛み。
何がどうなったのか、理由はなんとなくわかった。

けれど、それをどうすることもできなくて、ただ、目の前にいるまゆを見つめた。

「いい顔ね。あんたのその、恐怖に怯えた表情。たまらないわ」

くつくつと笑うまゆ。


何で。どうして?
私が何をしたっていうの?


稜夜と仲良くなったから?
東峰夫妻のもとへ自ら行くと言ったから?

私が、生まれてきたから――…?



稜夜と仲良くならなければよかったの?
東峰夫妻のもとへ行かなければよかったの?


そうじゃない。
そうじゃない、きっと。
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