Symphony V
俺は生まれたときから、人前では稜夜と呼ばれていた。どうして家の中では陽輔と呼ばれるのに、外に出ると稜夜と呼ばれるのか。その理由はわかっていなかった。
ただ、周りのみんなもそうなんだと、あの男に言われていた。

ある日、母親に2人目の子供ができた。
本物の稜夜だ。

子供ができたとき、あの男は喜び、母は泣いた。

母の涙の理由はすぐにわかった。
稜夜が生まれたその日、俺はあの男に連れられて、アメリカへと渡った。
そしてそこで、一人の男に引き渡された。
…先代の、紅い蜘蛛だ。

あの男と、先代は知り合いだったみたいでね。
先代に仕事をタダで引き受けてもらう代わり、子供が2人できたとき、先に生まれた方を、先代に引き渡すという約束をしていた。

先代は、自分が現役で続けられるのはあと少しだけだとわかっていたからな。
俺も、最初は反発したが、先代の仕事を見ていくうちに、どんどん憧れていったんだ。

先代に引き取られてからというもの、俺は必死で先代に追いつけるようにと頑張った。
そして、ついに、俺が一人で仕事をこなす日がやってきた。

だが。
あっけなくそれは、別のやつに先を越された。

オルトスの2人だよ。

俺は自分の記念すべき1人での仕事をあいつらに奪い去られ、輝かしい紅い蜘蛛の経歴に泥を塗った。

そしてその日。

先代は死んだ。
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