Symphony V
癌だった。

だけどあの人は、俺が一人前になるためにと、痛み止めで痛む体をごまかし続け、必死で俺を育ててくれた。

その恩に報いるためにも。
俺が一人前になったと証明するためにも。

俺は、なんとしてもあの日。
仕事をやり遂げなくちゃならなかったんだ。


もう一生、あの人に俺の一人前になった姿を見せることができない。
あの人の死に目にあうこともできず、仕事を完遂させることもできず。


何もかもすべてを失ったような気がした。


そして俺の中に残ったものは。



オルトスへの怒りと、復讐の念だけだった。


オルトスの正体を突き止めるのは実に簡単だった。
…正直驚いたよ。

俺を実の両親から引き離した張本人が、今度は俺から、先代への大切な恩返しのチャンスを奪ったと知ってね。

だから今度は、あいつから。
すべてを奪い取ってやろうと決めた。

あの男から連絡が来たのは先代がなくなって少ししてからのことだった。
先代が死んだことを、あの男はもちろん知らなかった。
だから俺は、先代に成り代わり、あいつの依頼を遂行してやった。

…母親の、ゆかりの殺害を。

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