Symphony V
陽輔の告白に、唯は言葉が出なかった。

「辛い…?」

聞くと陽輔は首を横にふった。

「…悲しい?」

また、陽輔は首を横にふる。

「そういう感情が、俺にはもう、よくわからない。何が楽しくて、何が嬉しくて。何が辛くて、何が悲しいのか。ただ今日まで。怒りと憎しみ、恐怖の感情だけを感じて生きてきた」

陽輔の言葉に、唯はそっと手を伸ばした。

「復讐して…気持ち、はれた?」

優しく陽輔を抱きしめる唯。陽輔はただ、唯のぬくもりを感じ、そして、首を横にふった。

「もう、やめようよ。こんなこと」

唯の言葉に、陽輔の返事はなかった。

「うまく言えないけど、なんていうのかな…これ以上はもう、やっちゃだめだよ」

ぎゅっと手に力がこもった。

「俺は、君の、大切な人たちを殺した」

陽輔の言葉に、唯の体は少し震えた。

「わかってる。それは…きっと。私、許すことなんてできないと思う」


優しいお父さんとお母さん。大好きで憧れだった先輩。


「でも…もっといろんなことが違ってれば。あなたもこんな風になってなかったはずだもん」

稜輔が、先代と陽輔を引き渡す約束なんてしなければ。
先代のことを、父と母が止めていれば。

「あの時こうしてれば、ああしてればなんて、後からならいくらでも言える。だけど、どんなに強く願っても、過去に戻ることはできないから」

唯の頬に、暖かいものが落ちてきた。
顔を上げると、陽輔の目から一粒、二粒と、涙がこぼれていた。

「だからもう、これ以上はやめようよ。続けたらきっと、この先もずっと、後悔し続けることになるから」
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